生活保護を受給すると車を持てないし、使えないと聞いた
それはとても困るから生活保護申請をやめようかな。
どうすれば良いか教えてほしい。
そんな疑問に答えます。
(この記事は随時加筆していきます。)
- 福祉歴17年の行政書士・社会福祉士・公認心理師
- 四国生活保護支援法律家ネットワーク会員
- 福祉施設・行政機関で相談経験多数
お役に立てば幸いです。
【解説に入る前】ご興味ある方は「生活保護と車」に関連した3つの記事をお読み下さい。
1つ目は、2023年6月13日配信の朝日新聞デジタル配信の「生活保護受けると車持てない?「生きていけない」地方で訴え相次ぐ」1というタイトルの記事です。
記事の書き出しを一部引用すると、このようなことが書かれてあります。
車を保有していることを理由に、生活保護が受けられないのは違法だとして、自治体を訴える例が相次いでいる。生活必需品ともされる車が受給を希望する人の「壁」になっているのはなぜか。
記事内では、特に車が生活必需品である「地方都市」在住の方にとって生活保護を受給すると車が利用できないことが大きな「壁」になっていることがわかります。その「壁」を打破しようと各地で様々な裁判が行われいることを伝える内容になっています。
2つ目は2022年12月6日の民医連2新聞の内容です。
Aさんは、足に障害がある50代の男性です。
昨年、和歌山生協病院に入院し働けなくなり、障害年金だけでは生活が立ち行かず、生活保護を申請。車を保有していましたが、コロナ禍の特例で保護開始となりました。ところが、次第に和歌山市の生活支援課職員から「運転するな」と指導されるように。
(中略)
そんななか今年4月、Aさんは突如、市役所に呼び出されました。話を終え、所用を済ませて車に戻ると、「早く来て!」と女性が誰かを呼ぶ声が。あっという間に支援課職員7人に取り囲まれ、「乗ってるやないか」「走行距離を見せろ」と責め立てられました。尾行されていたのです。
これら二つの記事から、生活保護受給者にとって車を利用することは、行政などから、それ自体がまるで「罪」であるかのような取り扱いをされる様子が伝わってきます。
3つ目は2022年6月8日の沖縄タイムスに『「生活保護のせいで車を役所に取り上げられたら困るから殺してくれ」末期がんの弟に頼まれ殺害 兄が供述』3 という衝撃的なタイトルの記事があります。
この事件のことが書かれている、作家の雨宮処凛4さんの著作の『学校では教えてくれない生活保護 (14歳の世渡り術) 』の当該部分から一部内容を引用させていただきます。
ここで生活保護と車をめぐる、悲しい事件を紹介したい。
事件が起きたのは2021年12月、沖縄県でのこと。67歳の兄が49歳の弟に頼まれて首を絞めて殺害したのだ。
兄弟は同居しており、弟は末期ガンで主治医に余命宣告を受けていた。弟は兄に身体の痛みを訴え、自分の首にタオルを回して殺すよう求めたという。その要望に応えた兄は、嘱託殺人で逮捕。
亡くなった弟は、自分の治療費で他の兄弟に迷惑がかかることを気にしており、「自分の生活保護のせいで、(別の弟の)車を役所に取り上げられたら困るから殺してくれ」と言っていたことも明らかになっている。
この文章に続き、本の中では、兄弟は実際には生活保護は受給していなかったものの、将来的に生活保護を受給したら車を利用している兄弟の迷惑になると考えた弟さんが「殺してくれ」と頼んだ理由のひとつだったのではないかという雨宮さんの推察が入ります。
「生活保護を利用したら車が使えない」ということがきっかけとなった、「悲劇」といえるのではないでしょうか。
上記の記事や本の内容に限らず、世間一般では「生活保護を利用すると車は持てない・使えない」という情報が、まるで唯一絶対の真実のように語られています。
ちょっと待ってください。制度を運用する厚生労働省自身は「生活保護だと車は絶対に持てない」などとは言っていません。様々な条件はありますが、必要な人には車を所有・利用ができるようになっています。
生活保護を受給中は車は持てるの?
結論生活保護受給中も場合によって車は保有できます。
えっ、ダメだと聞いたよ。どうしたら良いの?
【概要】現行の厚生労働省通知の解釈・運用で多くの場面で車を利用できます。
多数の法律家の先生方で構成される、生活保護問題対策全国会議5のHPには、「厚労省通知徹底活用 自動車を持ちながら生活保護を利用するために!Q&A」6という冊子があります。
この冊子の中に、このような文言があります。
「自動車を持っているから」と生活保護の申請を断念するという話を、特に地方でよく耳にします。
(中略)
しかし、あきらめる必要はありません。現行の厚生労働省通知を前提としても、それを正しく解釈・運用することで自動車を持ったまま生活保護を利用できる場合は、かなり多くなるでしょう。
ここに書かれているように、ちまたでよく言われる「生活保護を受けると車が持てない」というのは間違いであり、厚生労働省の通知等には「~の場合は利用してもよい」といった様な条件が詳細に書かれています。
それぞれの条件は各通知に書かれているので、以降は「生活保護と車」に関連した通知毎に解説していきます。
厚生労働省の見解
ここからは厚生労働省社会・援護局保護課長通知7という問答式の通知を主に参考にしながら解説していきます。
通勤用自動車の保有
問(第3の9)
次のいずれかに該当する場合であって、自動車による以外に通勤する方法が全くないか、又は通勤することがきわめて困難であり、かつ、その保有が社会的に適当と認められるときは、次官通知第3の58にいう「社会通念上処分させることを適当としないもの」として通勤用自動車の保有を認めてよいか。
1 障害者9が自動車により通勤する場合
2 公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住するもの等が自動車により通勤する場合
3 公共交通機関の利用が著しく困難な地域にある勤務先に自動車により通勤する場合
4 深夜勤務等の業務に従事している者が自動車により通勤する場合
答 お見込みの通りである。
なお、2,3及び4については、次のいずれにも該当する場合に限るものとする。
(1)世帯状況からみて、自動車による通勤がやむを得ないものであり、かつ、当該勤務が当該世帯の自立の助長に役立っていると認められること。
(2)当該地域の自動車の普及率を勘案して、自動車を保有しない低所得世帯との均衡を失しないものであること。
(3)自動車の処分価値が小さく、通勤に必要な範囲の自動車と認められるものであること。
(4)当該勤務に伴う収入が自動車の維持費を大きく上回ること。
生活保護手帳 2023年度版 P251
状態 | 通勤用自動車保有が認められる人 | その他の条件等 |
---|---|---|
就労中 | 障害者が自動車により通勤する場合 | 無し |
公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住するもの等が自動車により通勤する場合 | (1)世帯状況からみて、自動車による通勤がやむを得ないものであり、かつ、当該勤務が当該世帯の自立の助長に役立っていると認められること。 (2)当該地域の自動車の普及率を勘案して、自動車を保有しない低所得世帯との均衡を失しないものであること。 (3)自動車の処分価値が小さく、通勤に必要な範囲の自動車と認められるものであること。 (4)当該勤務に伴う収入が自動車の維持費を大きく上回ること。 | |
公共交通機関の利用が著しく困難な地域にある勤務先に自動車により通勤する場合 | ||
深夜勤務等の業務に従事している者が自動車により通勤する場合 |
保護開始時において失業や疾病により就労を中断している場合の通勤用自動車の保有
問(第3の9-2)通勤用自動車については、現に就労中の者にしかみとめられていないが、保護の開始申請時においては失業や傷病により就労を中断しているが、就労を再開する際には通勤に自動車を利用することが見込まれる場合であっても、保有している自動車を処分させなくてはならないのか。
答 概ね6か月以内に就労により保護から脱却することが確実に見込まれる者であって、保有する自動車の処分価値が小さいと判断されるものについては、次官通知第3の2「現在活用されてはいないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの」10に該当するものとして、処分指導を行わないものとして差し支えない。ただし、維持費の捻出が困難な場合についてはこの限りではない。
また、概ね6か月経過後、保護から脱却していない場合においても、保護の実施機関の判断により、その者に就労阻害要因がなく、自立支援プログラム又は自立活動確認書により具体的に就労により自立に向けた活動が行われている者については、保護開始から概ね1年の範囲内において、処分指導を行わないものとして差し支えない。
なお、処分指導はあくまで保留されているものであり、当該求職活動期間中に車の使用を認める趣旨ではないので、予め文書により「自動車の使用は認められない」旨を通知するなど、対象者には十分な説明・指導を行うこと。ただし、公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住している者については、求職活動に必要な場合に限り、当該自動車の使用を認めて差し支えない。
また、期限到来後自立に至らなかった場合については、通勤用の自動車の保有要件を満たす者が通勤用に使用している場合を除き、速やかに処分指導を行うこと。
状態 | 通勤用自動車保有が認められる人 | その他の条件等 |
---|---|---|
就労中断中 | 概ね6か月以内に就労により保護から脱却することが確実に見込まれる者 | 保有する自動車の処分価値が小さいと判断されるものについては、次官通知第3の2「現在活用されてはいないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの」10に該当するもの |
概ね6か月経過後、保護から脱却していない場合においても、保護の実施機関の判断により、その者に就労阻害要因がなく、自立支援プログラム又は自立活動確認書により具体的に就労により自立に向けた活動が行われている者 | 保護開始から概ね1年の範囲内において、処分指導を行わない |
障害者が通院等のため自動車を必要としている場合等の自動車保有
問(第3の12)次のいずれかに該当する場合は自動車の保有を認めてよいか。
1 障害者(児)が通院、通所及び通学(以下「通院等」という。)のために自動車を必要とする場合
2 公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者が通院等のために自動車を必要とする場合
答 次のいずれかに該当し、かつ、その保有が社会的に適当と認められるときは、次官通知第3の5にいう「社会通念上処分させることを適当としないもの」としてその保有を認めて差しつかえない。
1 障害(児)者が通院等のために自動車を必要とする場合であって、次のいずれにも該当する場合
(1) 障害(児)者の通院等のために定期的に自動車が利用されることが明らかな場合であること。
(2) 当該者の障害の状況により利用し得る公共交通機関が全くないか又は公共交通機関を利用することが著しく困難であって、他法他施策による送迎サービス、扶養義務者等による送迎、医療機関等の行う送迎サービス等の活用が困難であり、また、タクシーでの移送に比べ自動車での通院が、地域の実態に照らし、社会通念上妥当であると判断される等、自動車により通院等を行うことが真にやむを得ない状況であることが明らかに認められること。
(3) 自動車の処分価値が小さく、又は構造上身体障害者用に改造してあるものであって、通院等に必要最小限のもの(排気量がおおむね2,000cc以下)であること。
(4) 自動車の維持に要する費用(ガソリン代を除く。)が他からの援助(維持費に充てることを特定したものに限る。)、他施策の活用等により、確実にまかなわれる見通しがあること。
(5) 障害者自身が運転する場合又は専ら障害(児)者の通院等のために生計同一者若しくは常時介護者が運転する場合であること。
なお、以上のいずれかの要件に該当しない場合であっても、その保有を認めることが真に必要であるとする特段の事情があるときは、その保有の容認につき厚生労働大臣に情報提供すること。
2 公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者が通院等のために自動車を必要とする場合であって、次のいずれにも該当する場合
(1) 当該者の通院等のために定期的に自動車が利用されることが明らかな場合であること。
(2) 他法他施策による送迎サービス、扶養義務者等による送迎、医療機関等の行う送迎サービス等の活用が困難であり、また、タクシーでの移送に比べ自動車での通院が、地域の実態に照らし、社会通念上妥当であると判断される等、自動車により通院等を行うことが真にやむを得ない状況であることが明らかに認められること。
(3) 自動車の処分価値が小さく、通院等に必要最小限のもの(排気量がおおむね2,000cc以下)であること。
(4) 自動車の維持に要する費用(ガソリン代を除く。)が他からの援助(維持費に充てることを特定したものに限る。)等により、確実にまかなわれる見通しがあること。
(5) 当該者自身が運転する場合又は専ら当該者の通院等のために生計同一者若しくは常時介護者が運転する場合であること。
申し訳ありません。まだ途中ですが随時加筆していきます。
脚注
障害者 | 交通不便な場合 | ||
---|---|---|---|
通勤(課第3-9) | 自動車による以外に通勤する方法が全くないか、又は通勤することがきわめて困難であり、かつ、その保有が社会的に適当と認められるときには、「社会通念上処分させることを適当としないもの」(次官通知第3の5)として容認 | (交通不便な場合に課される右記(1)~(4)の条件は求められない。) | 居住地もしくは勤務先が、公共交通機関利用困難地にあるか、深夜業務従事者であって、かつ(1)~(4)の全ての条件必要 (1)勤務が自立に役立つ (2)地域の普及率、自動車非保有低所得者との均衡 (3)処分価値が低い (4)当該勤務の収入>維持費 |
通院等(課第3-12) | 通院、通所及び通学(以下「通院等」のために自動車を必要とする場合 | (1)~(5)の全ての条件が必要 (1)定期的利用 (2)自動車利用が真にやむを得ないこと(公共交通機関の利用が著しく困難、送迎サービス活用困難、タクシーより自動車を利用する方が妥当等) (3)処分価値低く、2000cc以下 (4)維持費が他からの援助や他施策で賄われる (5)本人や生計同一者が運転 | 公共交通機関利用困難地域に居住する者かつ(1)~(5)の条件が必要 (1)定期的利用 (2)自動車利用が真にやむを得ないこと(公共交通機関の利用が著しく困難、送迎サービス活用困難、タクシーより自動車を利用する方が妥当等) (3)処分価値低く、2000cc以下 (4)維持費が他からの援助や他施策で賄われる (5)本人や生計同一者が運転 |
- ブログ記事作時点では有料記事です ↩︎
- 「民医連」は民主医療機関連合会の略称。全日本民医連の結成は1953年。戦後、医療に恵まれない人々の要求に応えようと、地域住民と医療従事者が手をたずさえ、民主的な医療機関が各地につくられその連合体として結成 ↩︎
- こちらの記事もブログ記事作時点では有料記事です ↩︎
- 1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー ↩︎
- 生活保護問題対策全国会議は、2007年6月に設立された法律家・実務家・支援者・当事者などで構成された団体 ↩︎
- この冊子の内容は本当に素晴らしいです。生活保護と車を所有・利用する ↩︎
- 厚生労働省社会・援護局保護課長通知の文言は「生活保護手帳(2023年度版)」「生活保護手帳 別冊問答集(2023年度版)」(ともに中央法規)を参考にさせて頂きました。 ↩︎
- 厚生労働事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について 第3 資産の活用」
最低生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、次の場合を除き、原則として処分のうえ、最低限度の生活の維持のために活用させること。
なお、資産の活用は売却を原則とするが、これにより難いときは当該資産の貸与によって収益をあげる等活用の方法を考慮すること。
1 その資産が現実に最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持及び自立の助長に実効があがっているもの
2 現在活用されてはいないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの
3 処分することができないか、又は著しく困難なもの
4 売却代金よりも売却に要する経費が高いもの
5 社会通念上処分させることを適当としないもの ↩︎ - ↩︎
- 脚注8を参照 ↩︎
- 脚注8を参照 ↩︎
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